むかしむかし、氷の海に浮かぶちいさな島に一羽のペンギンが住んでいました。
その島では太陽はとても気まぐれで、昇ったり沈んだりすることも、ぐるぐると空のまわりを回って沈まないことも、はたまた何日も顔を出さないことさえあります。
そんな風景をいつも見ているうちに、ペンギンは太陽が昇ったり沈んだりする海の終わりがどうなっているのか見てみたくなりました。
ペンギンはまず海に飛びこんで得意の泳ぎで海の終わりまで行ってみようとしました。
でも、ペンギンが住んでいる島には、そのまわりを取り囲むようにぐるぐる回っている海流があって、他の海と行き来することは大変なことだったのです。
ペンギンは泳いでも泳いでも、気がつくと元の場所に戻ってきてしまいました。
だんだん、ペンギンは空を飛んで行けばうまくいくような気がしてきました。
でも、ペンギンはもともと空を飛べない生き物です。
走って勢いをつけながら飛んだり、いったん海にもぐってから勢いをつけて跳び上がってみたりしましたが、なかなかうまくいきません。
そこで、ペンギンは思い切って高いところから羽ばたいてみようとして、島で一番高い山に登ることにしました。
ペンギンがよちよちと急な山道を歩いていると、カタバ風が山の上から吹き下ろしてきました。
この風に当たると寒さに強いペンギンでも死んでしまうほどの、とても冷たくて強い、おそろしい風です。
でも、どうしても空を飛びたいペンギンは、この風に乗ってみようと思いました。
寒さで気を失いそうになりながらも、いっしょうけんめい羽ばたき続けました。
やがて、ペンギンは自分の体が急に軽くなったのに気がつきました。
フリッパーを動かすと、どんどん上の方に昇っていきます。
ペンギンは空を飛べたことがうれしくて、足元をふりかえることなく空高く舞い上がっていきました。
普通の鳥が飛べる高さよりもずっとずっと高い空に浮かんだペンギンは、まあるい水平線の向こうに太陽が輝いているのを見つけました。
海の向こうに沈んだように見えた太陽は、ペンギンが考えていたよりももっと遠いところにあったのです。
ふと下を見ると、真っ白な氷の大地と青い海が広がっています。
ペンギンは急にふるさとの海が恋しくなりました。
でも、どんなにがんばって下を向いて羽ばたいても、もう戻ることはできませんでした。
あきらめて辺りを見渡すと、ペンギンは数え切れないほどの星の中にぼんやりと光る川が流れているのを見つけました。
ペンギンは大急ぎで飛んで行きました。
空を飛べるようになっても、やっぱり水の中に入りたくてしかたがなかったのです。
近くまで行ってみると、それは川ではなくてたくさんの星の集まりでした。
それでもペンギンはぜんぜん困りませんでした。
星空の中を飛んでいる間に自分も星になってしまっていたからです。
こうして星になったペンギンは、今でも天の川の中にいてふるさとの海を見下ろしています。(南極・オングル地方の物語)
※この物語はフィクションです。実在の神話・伝説・地名・民族・既存の星座絵等とは一切関係がありません。
ただし、この星の並びだけは現在の空に実在します…。
(2004 November 25)
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